私はフリーのライター、運河よし子。フリーになってまだ半年の、駆け出しライター。
今日は、先日直木賞を受賞した『1ミリの妥協、一片の埃』の著者、駒野快人先生のインタビューの日。
新人なのに、こんな有名人に取材できるなんて…本当に運がいい私。
…なんでも、取材を依頼したライターさんが次々に断ってきたとか。
このチャンスをものにしなくちゃ…。
先生のご自宅は、西鎌倉の外れの簡素な住宅街の中にあった。
和風の建物で、一見古い家屋に見えるが、よく見ると玄関からして何もかもが『ピシリ』とキマっている感じ。
さすがだ。
直木賞を受賞した先生は、生活スタイルからして凡人と違う…
そう思いながらチャイムを鳴らすと、家政婦さん?みたいな人が出てきた。
大きなマスクにエプロンをした男性で、手にはハタキを持っている。
じろじろと、こちらを値踏みするように見ていたが、名刺を出しながら取材の件を話すと「…どうぞ」と言ってスリッパを出してくれた。
案内してくれるらしい。
靴を揃えてスリッパを履き、男性の後についていくことにした。
長い廊下の途中で、気がついていたことがある。
家の中が『ものすごく整理整頓されている』こと。
誰も生活していないかのように、ピチリと揃っている。
それ以上に気になったのが…家の至る所で「ヴーン」「ゴツッ」という音がしているのだ…
何事かと思ってよく見てみると、それは自立型お掃除ロボット、いわゆる「ルンバ」だった。
何台ものルンバが、家の中を行き来し、時にはぶつかり合っている音なのである。
ちょっと異様な光景に、私は立ち止まってしまった。
けれども、家政婦さん?らしき人はどんどんと奥へ進んでしまう。
慌てて後をついて行ったが、ルンバたちが家の中を這いずり回っている光景が、頭の中から離れない。
…これから取材なんだ。しっかりしなくちゃ…
家政婦さんは、廊下の一番奥までいき、突き当たりの部屋の扉をあけた。
のぞいてみると、部屋の壁には蔵書がビッシリとならんでおり、真ん中には低い机が一つと小さめの屑籠が一つ置いてあるだけ。
机の上には、本を書くためだろうか、真っ白な原稿用紙の束と万年筆が一本置いてあった。
家政婦さん?らしき人は、しずしずと部屋に入り込むと、手に持っていたハタキをかけ始めた。
そしてハタキをかけながら、「新作についての取材でしたでしょうか?質問をどうぞ。」と私に向かって言ったのだ。
「!?」
驚いて男性の顔をよくよく見てみると、家政婦さんなどとは、とんでもない。
なんと、駒野先生ご本人である。
大きなマスクをしていたので、全く気が付かなかった!
慌てた私は、取材道具を取り出そうとして、カバンの中身を床にぶちまけてしまった。
「あっ!!」
恥ずかしいことだが、奥に詰め込んでいたレシートや紙屑も、一緒に散らばっている…
それを見た駒野先生は…
「ぎぇー!!!」
と叫んで、こちらに飛びかかってきた!
思わず身構える私!
でも先生は私には見向きもせず、床に飛び散ったレシートや紙屑を一心不乱に拾い、屑籠にいれている。
こっ、これは!
私は直木賞作家にむかって、失礼ながら、こう思ってしまった。
「お、お掃除作家…」
お掃除作家…? お掃じさっか… おそう自さつ家…
『襲う自殺家』
ダジャレ怪談協会による独自採点
- 伝統のネタ度:★
- ネタ文字数の長さ:★★★
- むりくり度:★★
- 怖い度:★★★
- 家の綺麗さ:★★★★★

